マリモ保護の闇?マリモへの人災は令和にも起こった?


未だ絶滅の危機から脱していない阿寒湖のマリモですが、それを救おうと様々な試みが行われてきました。

対策の一つとして、マリモの回転を妨げる原因となる水草の大規模な除去が行われましたが、その効果について何故か全く正反対の発信が存在しています。

つまり、「水草除去にマリモの回復効果がある」とする発信と「水草除去は効果がなくリスクがある」とする報道が存在します。

どちらが正しいのか疑問に思ったので調べてみると、マリモ保護に関する闇(?)が関係しているようです。

マリモの闇

詳しくはマリモ博士である若菜勇先生がブログで発信されていますが、そこで指摘されている問題点について要点をまとめてみました。

根拠となる論文の問題点と疑惑

マリモ減少の原因は水草ではなく地球温暖化による水温上昇である』という主張があります。

この裏付けとなるのは、2023年に発表された論文(Ideal water temperature environment for giant Marimo (Aegagropila linnaei) in Lake Akan, Japan)ですが、この論文に問題があることをマリモ博士は指摘しています。

以下、ブログにおける各章についての要点を記載します。

(詳細は元記事のブログを是非ご覧ください)

①水温上昇でマリモが破損!?

論文では、暗闇に置いたマリモの乾燥重量が夏季に特に速く減少したことから「温度が高いほどマリモの分解が進む」としています。

しかし、重量減少の中身が本当に死細胞の分解なのかが明確ではなく、暗黒下での重量減少と自然環境での球状マリモの破損を直接結びつけるのは、仮説に仮説を重ねた議論だと指摘しています。

②マリモの年輪状構造と成長速度

論文ではMRIで見えるマリモの濃淡の層を年輪とみなし、その間隔から年間成長速度を推定しています。

ところが、この年輪構造は現れる場合と現れない場合があり、本当に毎年形成される年輪なのかは確定していません。

したがって、層の数や間隔からマリモの年齢や成長速度を求める前提が不十分だと指摘されています。

③知見は盗用されたのか

論文は年輪状構造を今回初めて発見したかのように記述していますが、マリモの年輪の存在は1902年から知られており、阿寒湖のマリモでも1950年代に確認されていました。

しかし、論文では1902年や1950年代の先行研究を引用していないとされています。

さらに、2006~2009年に別の研究者がCT・MRIで撮影した画像や知見がマリモ研究室に保管され、後任者に引き継がれていたにもかかわらず、その研究者が論文の著者や謝辞に記載されていません。

マリモ博士は、知見が無断利用された可能性を指摘しています。

④改変された6個のデータ

2021年の論文に掲載された「風速とマリモの回転速度」のグラフが、2015年に発表済みのグラフとほぼ同じであるにもかかわらず、10点中6点の回転速度が微妙に変えられていたとされます。

また、変更されたデータの多くで標準偏差が小さくなっていたため、データを再現性が高く見える方向に変更した疑いがあるとされます。発表済みデータの再掲載と、変更の根拠・手順が説明されていない問題点を指摘しています。

⑤神戸大学工学研究科の見解

論文に問題があることを大学に報告したマリモ博士ですが、そこで大学側から不可解な対応があったと言います。

 年明けの1月、この問題についてやり取りしていた神戸大学大学院理学研究科の羽生田岳昭 博士(現・北里大学)が、論文の筆頭著者である中山教授が所属する同大大学院工学研究科に話を持ち込んだ。研究科長と面談した結果、その場で羽生田さんをメンバーに加えた調査委員会の設置が決まった。

 しばらくして、工学研究科から私に調査委員会による聞き取りを行いたいとの連絡があった。だが、申立人、すなわち聞き取りの対象は私一人にして欲しいという。嫌な予感がした。

 問題のありかは、SR論文におけるデータの取り扱いや発表手続きが適正であったかどうかである。ならば、論文の中身が分かると同時に、学会など専門の組織で学術論文の審査や発表の実務に携わっている大学の教員などが申立人としてふさわしい。共同研究者や先輩方とも、そう相談していたため、私一人というのには抵抗があったが、調査委員会には外部から羽生田さんも入ると聞いており、了承した。

 ところが、1月末に調査委員会による聞き取りをネットで受けた際、委員会のメンバーは工学研究科の教員3名で、羽生田さんの姿はなかった。後で羽生田さんに尋ねたところ、調査委員会への参加に関する連絡はなかったという。
⑤ 神戸大学工学研究科の見解 | マリモ博士の研究日記

聞き取り調査の結果、大学の回答は「過去のデータから不正確なものを除外して新しい図を作成したものであり研究不正には該当しない」というものでした。

その一方で、「先行論文の図に基づくことやデータ変更の説明を論文中でもっと明確にすべきだった」と大学側も認めています。

マリモ博士は、どのデータがなぜ不正確で、どのような手順で修正されたのかが開示されておらず、検証可能性がないと批判しています。

⑥掲載データの何が問題か

この問題は、単に引用表記が不十分だったことではなく、発表済みのデータを別論文に再掲載したこと自体にあるとマリモ博士は述べています。

変更前後の元データや解析過程が公開されていないため、第三者が変更の正当性を確認できません。マリモの成長速度についても、濃淡の層を年輪とみなす証拠がないまま計算が進められていると指摘しています。

⑦外層厚を変化させる要因

論文は「マリモが大きいほど外層が厚くなる」としています。

しかし、実際のマリモの外層の厚みは2~6cm程度の幅があり、光量や水深、マリモ同士の重なり、水草、内部の分解速度などに左右されるため、直径だけで決まるものではないとされています。

また、採取場所や時期、その方法が論文に記されておらず、硬くて扱いやすいマリモを選んだ結果、外層の厚い個体に偏った可能性があると指摘しています。

⑧採取時の選択バイアス

⑦と同様、サンプルとして採取したマリモについての問題として、調査対象は10個と少なく大型マリモは5個しかないことを指摘しています。

当時の環境においては、外層が薄く軟らかいマリモも多かったはずなのに、測定された大型個体の外層厚がすべて3.4cm以上だったことから、採取や運搬で壊れにくい硬い個体が選ばれた可能性があると言います。

つまり、サンプルが群生地全体の実態を代表していない疑いがあるという指摘です。

⑨成長速度を変化させる要因

論文では「小型マリモほど外側が物理的に摩耗しやすいため成長が遅く、大型マリモほど外層が厚くなる」と説明しています。

しかし、マリモ博士によれば、小型マリモのほうが摩耗しやすいという現象は阿寒湖では確認されておらず、根拠となるデータや先行研究も示されていません。

マリモ博士は、小型マリモが集団の下層(他のマリモの下)に入り、光不足で成長が遅くなる可能性は認めつつも、外層厚は直径だけでなく光環境や集団構造によって変わるため、単純な直径との相関から成長速度を求めるのは不適切だとしています。

⑩球状マリモの炭素/窒素比

天然マリモでは外層外側の炭素/窒素比(C/N比)が高いことについて、論文は「酸素が多いため窒素が炭素より速く分解される」と説明しています。

しかし、外層外側のマリモ細胞は大部分が生きており、微生物によって分解されているという前提は不自然である言います。

論文にある「低酸素状態では脱窒が少ない」という説明は、一般に低酸素条件で進む脱窒の性質(低酸素の方が脱窒が起こりやすい)と反対ではないかと指摘されています。

⑪明暗で変動する炭素はデンプン

外側の炭素量が多い理由としては、窒素が分解されたのではなく、光合成でデンプンが蓄積した可能性を考えるべきだとしています。

マリモは暗闇では光合成ができないため蓄えていたデンプンを消費します。

そのため重量や炭素量が低下しても、それは直ちに細胞が死んで微生物に分解されたことを意味しません。

論文は、生きた細胞による合成と、死細胞の分解を区別していないことを批判しています。

⑫マリモが脱窒?

⑩で述べられたように、論文ではマリモ内部の低酸素環境と脱窒が関連づけられています。

しかし、そもそも脱窒を行う主体は通常、硝酸還元菌などの微生物であって、マリモ自身は硝酸などを取り込み物質を合成する側であるため誤りがあるのではないかと述べています。

マリモ博士は、マリモ個体の代謝と、マリモ内部を含む生態系全体の微生物作用が混同されていると批判しています。

⑬細胞が致死・分解に至る過程

論文は、暗闇での重量減少を、細胞が死亡し微生物によって分解された結果とみなしています。

しかし、実際には、まず生きた細胞がデンプンなどの貯蔵物質を消費し、その後に細胞死と分解が起こると考えられるため、減った重量には貯蔵物質の消費も含まれるはずだと述べています。

それにもかかわらず、初期から最後まで同じ速度で分解が続き、最終的に重量がゼロになるとしている点が問題とされています。

⑭外層厚計算のトリック

論文は、水温が高いほど分解速度が上がる一方、マリモの成長速度は常に年0.58cmとして計算しています。

その結果、水温が上がれば必ず外層が薄くなる計算になります。

しかし、植物の成長速度は温度によって変わります。適温範囲では温度上昇によって光合成と成長が促進され、外層が厚くなる可能性もあります。

成長速度を固定し、分解速度だけを温度に応じて変化させたことが、結論をあらかじめ決める計算上の仕掛けだと批判されています。

また、日積算水温だけでは、障害を生じる高温が何度で何日続いたかは分からないと言います。

⑮高水温の影響

高水温が長く続けばマリモに悪影響を及ぼすこと自体はマリモ博士も否定していません。

ただし、過去の実験では、30℃程度なら短期間で致死的な影響は見られず、明確に回復不能な障害は35℃付近から現れたとされています。

阿寒湖の群生地が一時的に30℃になった2010年にも、細胞死は確認されなかったとしています。

したがって、水温上昇をマリモ減少の原因とするなら、単なる平均値や積算値ではなく危険な温度に達した時間と期間を示す必要があるという指摘です。

⑯適正なマリモ保護のあり方を問う

最終的な批判は、論文の結論である「水温上昇によって外層が薄くなり大型マリモが壊れやすくなる」が、実測ではなく複数の推定に依存しているというものです。

具体的には、「暗闇での重量減少が何を示すか不明」「水温の長期変化も外層厚の変化も直接測定されていない」「成長速度を温度にかかわらず固定している」「サンプリングにも偏りが疑われる」という問題が重なっています。

そのような論文を根拠に、従来の「水草の繁茂によって波や回転が弱まり、マリモが衰退した」という保護方針を退け、水草対策を実施しない方針へ転換したことを強く問題視しています。

研究、査読、行政判断を独立した第三者が検証すべきだと結論付けています。

まとめ

この連載によるマリモ博士の主張は「高水温がマリモに影響しない」というものではなく、「この論文が現在の大型マリモ消失の原因を地球温暖化だけで説明する証拠としては成立しない」というものです。

この疑問点が残る論文を根拠に、実際にマリモ保護に必要な対策が行われなかったとしたら非常に問題と言えるでしょう。

論文発表以降、釧路市教育委員会とマリモ科学委員会は「マリモの破損は水温上昇の影響によるもので、水草除去対策は効果がない」との新聞発表を繰り返しています(北海道新聞: 2024年3月10日、6月22日、7月22日、12月19日、12月20日、2025年5月19日、5月20日、10月8日、12月22日、12月23日、いずれも佐竹直子記者による署名記事)。

2018~2020年の文化庁天然記念物再生事業で行われるはずだった水草除去対策は、<はじめに>で述べたように計画通り実施されず、2022年までに大型マリモ集団は消失してしまいました。
 しかしこの事実は公表されず、2024年にマリモ科学委員会の会議に水草対策の必要性を説明するため出席したところ(私は2021年度で委員を退任)、水草の増加によってマリモがさらに衰退している現状や過去の対策の経過に関する話も含めて、事務局である釧路市教委にとって都合の悪い情報は科学委員会全体で共有されていない、すなわち委員の多くに知らされていない実態を知りました。
 そしてマリモについては、「衰退傾向にあるが詳しい生育状況や原因については分かっておらず、対策を検討するため2024年から天然記念物緊急調査を行う」という驚くべき話に変わっていました。当該論文と2度目となる天然記念物緊急調査の結果とをもって、「人為の及ばない地球温暖化のせいでマリモはなくなった」と幕引きを図る目論見であったと思われます。
 こうして長期にわたって対策が行われず放置され続けてきた結果、水草の分布面積と生育量は過去に例がないほど増大する一方、大型マリモはすっかり姿を消して生物量も激減してしまいました。
おわりに―論文は責任逃れのための絵空事 | マリモ博士の研究日記

これが真実であれば、地球温暖化が悪であるという主張をしたいがための、一部の人間の保身のためにマリモが犠牲になったと言えます。

マリモのために真相解明と適切な対策が行われることを願うばかりです。

展示されたたくさんのマリモ
展示されたたくさんのマリモ

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