マリモ(毬藻)は藻の一種ですが、藻類には様々なものがあります。
「藻」と名付けられていても、実際は藻類とは違う生き物であることもあります。
藍藻や珪藻はマリモの生育にも関わる場合があるので、これらの「藻」について紹介します。
目次
藍藻とは
「藍色の藻」だと考えられていたことから名が付けられてた藍藻(ランソウ)ですが、実は藻ではありません。
藍藻は藻ではなく細菌?
藍藻は細胞核を持たない原核生物であり、真正細菌(バクテリア)の一種です。
よって他の藻類や陸上植物と違う生き物であると言えます。研究分野ではシアノバクテリアや藍色細菌と呼ばれます。
また「藍藻」は単一の生物を指すのではなく、様々なタイプが存在しています。細長い糸状のものや丸っこいもの、集合体になったものなどが知られています。細長くなるユレモ(揺藻)も藍藻の一種です。
ひとつの藍藻の大きさは非常に小さく、長さ約0.001~0.01mm、直径は約0.005mm(5μm)とされます。
毬藻のような葉緑体を持っていませんが、同じように酸素を発生させる光合成を行うことで成長します。実は植物の葉緑体の祖先となったものが藍藻であると考えられています。
地球上で初めて酸素発生型光合成を始めた生物がこの藍藻で、現在の地球上の空気の酸素は藍藻が大昔から酸素を放出し続けた結果増えたものとされます。
今からなんと約30億年前には地球に住んでいたと推定されているのです。
ストロマトライトと呼ばれる、炭酸カルシウムを主成分とする層状の岩を作り出します。世界各地に化石となったストロマトライトが残されています。
雨が降った後の土の上や芝生の周りなどには、青緑色または濃緑色の塊になった藍藻が現れることがあります。
藍藻の藍色の正体
藍藻は光合成色素として、緑色のクロロフィルaと青色のフィコシアニンを主な成分としているため細胞が藍色になります。
マリモと藍藻の関係
球状マリモが大型化するためには、マリモの藻同士が強固に接着することが重要になります。この接着剤の役割を担っているのが藍藻であると研究によって確認されています。
詳しくは以下のページを御覧ください。
しかし、時にはマリモの成長を邪魔することがあります。
夏に水域が富栄養化すると、藍藻が大量発生してアオコ(青粉、水の華)によって湖面が真っ青になります。このアオコが湖に注ぐ日光を遮ってしまうと、マリモが光合成できなくなってしまいます。
第二次の山中湖村フジマリモ生息調査で重要性が明らかになった「ままの森」下等において、ライントランセクト法によって2019年の9月と2020年の3月に調査を行いました。9月の調査では、マリモの生息水深の湖底の多くがシアノバクテリア(藍藻)に覆われ、3月の調査では珪藻に覆われ、マリモの生息状況は第二次調査に比べて明らかに悪化していました。
独立行政法人国立科学博物館 山中湖村教育委員会 「山中湖のまりも(山中湖村フジマリモ生息調査報告書)」の出版 ふたたび退潮傾向が明らかになった山中湖のマリモ 地球温暖化が影響か?
アオコの原因となる種類の藍藻は、細胞がゼラチン膜で囲まれていたりガス胞をもっていたりするので水面に浮きやすい特性があります。藍藻の種類によってはミジンコや魚に有害なミクロシスチン(ミクロキスチン)という物質を生み出すことがあります。
近年では阿寒湖でのアオコの大量発生は見られなくなってきましたが、以前は湖の下が全く見えなくなるほどアオコが増殖していた時期があったそうです。
珪藻とは
珪藻(ケイソウ)は藻の仲間(藻類)です。細胞の周りに珪酸質(ガラス質)による二枚の殻を持つのが特徴です。名前もその珪酸質の殻が由来です。
単細胞の真核生物で光合成を行います。ほとんどは大きさが0.1mm以下とされます。タイプも多く、約2万種類の存在が確認されています。いわゆる「植物プランクトン」として最も一般的に見られるものが珪藻です。
珪藻は藍藻に比べると新しい生物で、出現は約一億年前と考えられています。
珪藻は殻にケイ素(珪素)を使用するため、珪藻が増殖すると水中のケイ酸濃度が低下します。ケイ酸が枯渇すると珪藻は増えることができなくなります。
珪藻は緑色じゃない?
生きた珪藻は黄褐色や暗褐色に見えますが、これは光合成色素としてクロロフィルa、クロロフィルc、フコキサンチン、ディアディノキサンチン、ディアトキサンチンなどを持つためとされます。
マリモと珪藻の関係
マリモに付着して、その成長を妨害することがあります。
塩水処理によってマリモに付着した珪藻を取り除くことができるとされます。
シラルド湖産原藻(養殖マリモとして一般に販売されているマリモの原藻)に混じっている枯死した水草や泥などのゴミを可能な限り除去する。培養の障害となる付着珪藻や原生動物等の微生物の多くはこうしたゴミとともに存在している場合が多いことから、可能な限り除去する。
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より高い塩分濃度の汽水に数日間漬けることで、急激な浸透圧の変化を利用して付着珪藻などの微生物を死滅させ、除去する。
マリモ大量増殖に関する研究 倉本貢司(㈱マルシャン/代表取締役) 津野雅俊(北海道電力㈱生物環境グループ/主査)
マリモの成長を別の藻が邪魔するときには
マリモの性質を利用してその他の藻を取り除く方法については以下のページを御覧ください。
参考
- 筑波大学 植物分類・系統・進化学グループ cyanophytes
- 原生生物図鑑 ユレモ
- 国立科学博物館 浮遊性藍藻データベース 標本・資料データベース
- 研究材料の紹介:シアノバクテリア – 名古屋大学 ゲノム情報機能学研究分野
- 光合成を支える藻類のアンテナ色素の変遷:アンテナ遺伝子群の放棄と再獲得 | Research at Kobe
- 酸素を生み出す石-太古から生き続けるストロマトライトの話- – やわらかサイエンス|地層科学研究所
- 東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 池内・榎本 光合成研究室 シアノバクテリア
- 阿寒湖世界自然遺産候補地 選定に向けた展開方法 釧路市 総合政策部 都市経営課
- 国立科学博物館 プランクトンと微化石 珪藻
- 北海道大学のLASBOS 珪藻の増殖とケイ酸の枯渇(マンガ風解説)
- 鹿児島大学リポジトリ 最近の藍藻類の分類の研究
- 「阿寒湖のマリモ」天然記念物100周年記念シンポジウム – YouTube
- “きれいなみず”ってどんな水? 「富栄養湖」はきたないの?(2015年1月) | 生命圏環境科学科 | 東邦大学
ピンバック: マリモの成長にも影響を与える湖の富栄養化 - マリモの広場