このページでは、マリモ(毬藻)に関する基本的な事柄を紹介します。深緑色の大きな球体というイメージのあるマリモですが、一体どんな生き物なのでしょうか?
目次
マリモの特徴
マリモは自然に綺麗な球体となることが最大の特徴ですが、ひとつのマリモの姿は真ん丸なあのマリモではなく、小さく細長い緑色の藻です。
一つひとつは3〜4cm程度の枝分かれした糸状の藻(糸状体)であり、通常、小石や岩などに付着して成長します。
ひとつのマリモ細胞の大きさは太さが0.04〜0.1mm、長さは長いもので約2mmとされます。顕微鏡で拡大したマリモ細胞の写真はこちらのページを御覧ください。
この小さな藻が無数に集まって浅瀬で転がることによって、お馴染みの大きくて綺麗な球状に成長するのです。
しかし、マリモが球体になるためには条件があります。湖の浅瀬で回転運動ができなければ球体になることができないのです。
マリモが球体になるための自然環境が揃っている場所は極めて限定されています。
現在は北海道の阿寒湖に生息するマリモのみが大型の球体となります。大きいものでは直径が30cm以上にもなります。
かつてはアイスランドでも大型球形マリモが確認されていましたが、近年の環境変化で巨大マリモは現れなくなってしまったとされます。
マリモの生息地
日本を中心とする東アジアとバルト海周辺の北ヨーロッパといった北半球の地域が主要な生息地です。
現在、大きな球状体に成長できるマリモが群生している場所は日本の阿寒湖のみです。かつてはアイスランドのミーヴァトン湖もそうでした。
マリモの分類
マリモの生物種としての分類は、緑藻植物門(Chlorophyta)アオサ藻綱(Ulvophyceae)シオグサ目(Cladophorales)シオグサ科(Cladophoraceae)シオグサ属またはマリモ属(Aegagropila)の淡水大型藻類です。
マリモには他のシオグサ属には見られない特徴があることから、現在は別のグループであるマリモ属に分類される場合があります。
1921年に国の天然記念物に、1952年(昭和27年3月29日)には国の特別天然記念物に指定されました。ちなみに、特別天然記念物に指定された3月29日は「マリモの日」とされています。
また、絶滅の恐れがあり、1997年から環境省レッドリストの絶滅危惧I類(CR+EN)に分類されています。これは最も絶滅が危惧される種です。
アイスランドでは、ミーヴァトン湖に生育するマリモが2006年に同国の保護対象生物として指定されています。
タテヤママリモやアオミソウに代表されるマリモの仲間には以下のような種類があります。
これらのグループはマリモクレードと呼ばれます。
マリモの別名
アイヌ語ではトーカリップ(トーカリプ、沼の球)やトーラサンペ(湖の御霊、トー=湖、ラサンペ=妖)、スカナキップ(丸いもの)などとして文献に記載されていると言われます。
ちなみに、阿寒湖内のチュウルイ島にあるマリモの保護活動の拠点となる研究施設はトーラサンペと名付けられています。
英語圏では”Moss Ball“(苔のボール)や”Lake Ball“(湖のボール)、”Marimo“、”Marimo Ball“などと呼ばれます。アイスランドでは”Muck Balls“(マックボール、泥玉)とも呼ばれるそうです。
Moss(苔)と言われますが、実際はコケではなくAlgae(藻)です。”Seaweed Ball“と言われることもありますが、厳密には海藻ではないためこれもちょっと違う気がします。
エストニア語ではヤルベ・パイル(湖の球)と呼ばれます。
発見当時は阿寒湖のマリモとは別種と考えられていたマリモ類には様々な名前が付けられていました(フジマリモやヒメマリモ、フトヒメマリモやカラフトマリモ、チシママリモ、トロマリモなど)。これらはDNA解析によって阿寒湖のマリモと同種であることが確認されました。
マリモの学名
以下のように呼ばれます。現在では Aegagropila linnaei が主に用いられているようです。
- Aegagropila linnaei(エガグロピラ・リンナエ)
- Aegagropila linnaei Kütz.
- Cladophora Aegagropila(クラドフォラ・エガグロピラ)
- Aegagropila Sauteri(クラドフォラ・サウテリ)
エガグロピラ・リンナエは「リンネの毛玉」という意味で、スウェーデンの博物学者カール・リンネにちなんで名付けられたとされます。カール・リンネは1700年代にマリモを「コンフェルバ・エガグロピラ」と名付けていたことが記録されています。
“Aegagropila”には、地中海沿岸の山羊であるエガグルスの消化管内に生ずる球形の結石という意味もあるそうです。
古くは球状(放射状球形集団)のいわゆるマリモは「エガグロピラ・サウテリ」とも呼ばれたそうです。その他、形状によっても別々に名前がつけられていました。
マリモの学名を巡っては,属,種共に数々の変遷がありましたが,Hanyuda et al. (2002),Boedeker et al. (2010, 2012) などによる 18S rDNA を用いた分子系統解析が実施されてからは Aegagropila linnaei という種類が充てられ,マリモの学名は Aegagropila linnaei で安定していると思います。また,Boedeker et al. (2010, 2012) は,マリモが全世界的に1種類であると結論付けました。日本と中国にはタテヤママリモ(Aegagropilopsis moravica)という近似種が生育していますが,これはマリモとは属レベルで異なる種類です。
マリモ Aegagropila linnaei 作成者:鈴木雅大 作成日:2012年5月19日(2015年9月12日更新)
国内でのマリモの歴史
現在は国の天然記念物として保護されているマリモですが、かつてはアイヌの人々から漁の網に引っかかるからと邪魔者扱いされていたと言われています。
しかし、近代ではマリモの生物としての希少性から保護する運動が始まり、1921年には天然記念物に指定されました。
1950年からはマリモの保護・盗難防止を目的としてアイヌの文化を取り入れたまりも祭りが行われるようになりました。
マリモ発見の詳しい経緯や天然記念物となった理由などについては以下のページを御覧ください。
参考
- 国立科学博物館 微小藻の世界 世界のマリモ
- 環境省_全国自然いきものめぐりスタンプラリー | 阿寒湖畔エコミュージアムセンター
- 研究内容 | 嶌田研究室(植物系統進化学)
- 阿寒湖のマリモ保全対策検討委員会 マリモ保護管理計画
- リンネの木馬|マリモ博士の研究日記
- 【知られざる北海道】vol.16 世界に散らばるマリモのルーツは阿寒湖!? | 北海道Style
- Kobe University Aquatic and Environmental Engineering Lake Akan
- 阿寒湖のマリモはなぜ丸くなるのか?世界唯一マリモ研究室学芸員に聞く│北海道ファンマガジン
- 世界でここだけ!阿寒湖に丸いまりもが6億5000万個もいるのはなぜ?学芸員に聞いてみた | 和樂web 日本文化の入り口マガジン
- マリモ展示観察センター「トーラサンペ」 [まりもてんじかんさつせんたー「とーらさんぺ」] 釧路市阿寒町阿寒湖チュウルイ島 – 札幌 びもーる
- まりも祭りの創造:アイヌの帰属性と民族的共生
- Global Decline of and Threats to Aegagropila linnaei, with Special Reference to the Lake Ball Habit | BioScience | Oxford Academic
- 広報くしろ 8月号 阿寒湖のマリモを、もう一度見つめ直してみませんか?
- THE FLINTSTONE (bayfm 78.0MHz) :世界でただひとりの「マリモ」の博士!〜若菜 勇さんに聞く“マリモが丸くなるわけ!?”
- marimo | Icelandmag
- 水草研究会会報 No.6 マリモはなぜ丸い? 山形大学理学部生物学教室 1981
- 金沢大学大学院自然科学研究科 羽生田岳昭 マリモの分子系統学的研究:その起源、分類、生物地理
- Difference Between Algae and Moss | Difference Between
- 日本のマリモ・世界のマリモ / 国の特別天然記念物 ”阿寒湖のマリモ”公式サイト MARIMO Official Web Site
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