マリモの天敵はウチダザリガニ

近年、マリモを食べる生物としてウチダザリガニが知られるようになりました。このザリガニはどんな生き物なのでしょうか?

食べないでほしいも〜!


ウチダザリガニから逃げるまりこちゃん

ウチダザリガニの特徴

全長15〜20cm近くになる茶色い大型ザリガニです。

アメリカザリガニと違ってハサミの表面にはブツブツがなく、開閉部分に白い斑点があるのが特徴です。

ウチダザリガニの写真
ウチダザリガニ / 国立環境研究所 侵入生物DB

色は全体が赤みがかっているものやハサミの裏側だけが赤色になっているものがいます。

ハサミの裏側だけが赤いウチダザリガニ
How to Catch Crayfish (UK Crayfishing) – YouTube

その体長は在来種であるニホンザリガニの約3倍と巨大です。成長速度も繁殖力(産卵数)もニホンザリガニを上回ります。寿命は4年から6年とされます。

冷たい水を好みますが高温に対する耐性も持っており、南方では千葉県や滋賀県でも繁殖が確認されています。

ウチダザリガニは外国から来た?

ウチダザリガニは外国(北アメリカのオレゴン州コロンビア川下流)から持ち込まれた外来種(もともと国内に住んでいなかった生物)であり、マリモだけでなく様々な生物を捕食して生態系に影響を与えていることが確認されています。

2006年2月に外来生物法に基づき特定外来生物に指定され、飼育や運搬が禁止されています。

ウチダザリガニという名前は、そのザリガニを研究した北海道大学の研究者である「内田亨」氏の氏名にちなんで名付けられたそうです。漢字で書くと「内田蝲蛄」となります。

滋賀県高島市(今津町)の淡海湖では「タンカイザリガニ」とも呼ばれ、当初ウチダザリガニとは別種と考えられて保護対象とされていましたが、研究により同種と確認されました。

英語では「シグナル・クレイフィッシュ」(signal crayfish)と呼ばれます。その英語名から「シグナルザリガニ」と呼ばれることもあります。このシグナルは、鋏脚(ハサミ)の付け根にある⻘⽩い斑紋が由来とされます。

学名は「パシファスタクス・レニウスクルス」(Pacifastacus leniusculus)です。

マリモをただ食べるだけでなく、穴を開けて自分の巣穴にしてしまうことが報告されています。

マリモ以外の在来種も被害を受けており、湖から姿を消してしまった種もあると言われています。

黒萩(1994)によれば、阿寒湖畔のホテルが飼育していた摩周湖産のウチダザリガニを冬期、阿寒湖に放逐したのが起源といわれ、1980年代前半には阿寒湖に定着し、大量に繁殖していることが確認されている(蛭田1983)。
今日では、阿寒湖周辺の流入河川を含め、湖の沿岸域にあまねく分布することが明らかにされており、過去に生息が確認されていたニホンザリガニやマルタニシ、モノアラガイといった在来の大型底生動物(三嶋1934、高安ら1930、山田1976)が湖内で見られなくなった原因は、ウチダザリガニによって捕食されたためではないかと考えられている(高山ら2002)。
さらに、シャジクモ類やマリモ、マツモ、センニンモといった阿寒湖に生育する水草や藻類を餌として摂食していることが、最近、実験的に確かめられ、マリモが群生するチュウルイ湾では、球状のマリモを壊して巣穴として利用していることも明らかになっている(若菜ら2010)。
阿寒湖のマリモ保全対策検討委員会 マリモ保護管理計画

50gのウチダザリガニは、直径約10cm(100g)のマリモを約50日で食べ尽くすことが実験で確認されています。

もし阿寒湖全体のウチダザリガニがマリモだけを食べたとすると、一年でマリモは全滅してしまう計算とされます。

マリモ群生地でマリモの上を歩くウチダザリガニ
マリモの群生地を歩くウチダザリガニ

SDGs北海道から未来へ「“やっかい者”が…森とマリモを守る」2021年7月6日放送

ウチダザリガニが日本にやってきた理由

1926〜1930年に食糧難対策の食料として持ち込まれ、北海道東部の摩周湖で養殖が行われました。

ウチダザリガニの食感はエビに似ており、味はカニに似ていると言われます。茹でると体の色がエビのように赤くなります。

現在も阿寒周辺では捕獲したウチダザリガニを食用として消費しています。釧路市阿寒湖漁協ではレイクロブスターという名称で阿寒湖周辺の宿泊施設や飲食店に供給しているそうです。2021年6月現在ではウチダザリガニを使ったレトルト食品「レイクロブスタースープ」が販売されています。

他にもウチダザリガニを食材として活用しようという様々な試みが行われています。

福井県大野市の奥越漁協が同市の九頭竜湖に生息する特定外来生物ウチダザリガニを「奥越オマール」と名付け、食材としてブランド化を進めている。ぷりっとした身はカニのような風味でおいしいと、口コミでじわりと人気が広がっている。……
北海道・阿寒湖産のウチダザリガニは「レイクロブスター」としてブランド化されている。奥越漁協は15年ごろからウチダザリガニ漁を始めた。組合員らが食べてみると、身はおいしく食材として活用できないかと考えた。
福井県でウチダザリガニの食材ブランド化計画 九頭竜湖に生息「奥越オマール」と命名 | 経済 | 福井のニュース | 福井新聞ONLINE

阿寒湖周辺ではウチダザリガニ料理を食べられるお店があり、例えば、ウチダザリガニを入れたカルボナーラ(ザリボナーラ)を食べることができます。

ウチダザリガニが入ったカルボナーラ(ザリボナーラ)

ハサミと胴体の身を余すこと無く味わうことができます。

ウチダザリガニの影響

釧路湿原ではウチダザリガニが急激にその数を増やし、在来種であるニホンザリガニの生活圏が縮小していることが報告されています。また、貝類、魚類やその卵を食べてしまいます。

ウチダザリガニは雑食性であるため、水底の動物や植物のほとんどを餌とすることができます。また、凶暴な性質であり共食いをすることも確認されています。

在来種を食べることだけでなく厄介な菌を持ち込むことが知られています。ウチダザリガニが保有するアファノマイセス属菌(別名:ザリガニペスト)は他のザリガニに対して強い病原性を示すとされます。

アファノマイシス菌は通称「ザリガニ・ペスト」として知られ,シグナルザリガニを含むアメリカ産のザリガニはこの菌に対して耐性を持つものの,ヨーロッパザリガニやニホンザリガニ,オーストラリアザリガニは耐性を持たないため,感染後数日から数週間で死滅する(Unestam, 1969)。なお,ヨーロッパに移植されたシグナルザリガニには保菌個体群と非保菌個体群が知られているが,たとえ非保菌個体群であっても,沈水植物の切断ならびに実生更新の阻害,底棲動物や魚類の捕食,底泥の攪拌などを通じて食物網構造を大きく改変する(Nyström, 1999 の総説参照)。
特集:外来淡水産底生無脊椎動物の現状と課題 特定外来生物シグナルザリガニ(Pacifastacus leniusculus)の分布状況と防除の現状

もし見つけてしまった場合は、絶対に移動させないようにしましょう。

ウチダザリガニはどれくらい増えている?

北海道における2010年度の捕獲数は、なんと約15万匹とされます。

洞爺湖では、ボランティアダイバーの協力や篭を使用した駆除を行っているそうです。

現在でもウチダザリガニは東日本を中心に生活圏を広げており、最近(2019年10月)では群馬県片品村の菅沼でも増殖していることが示唆されています。

ウチダザリガニを根絶することはできる?

過去にウチダザリガニを根絶した例はなく、大量に捕獲している阿寒湖でも絶滅の気配は無いようです。

阿寒湖ではウチダザリガニが売り出されている。しかし事実として、阿寒湖では毎年トン単位で漁獲されているが現在でもウチダザリガニが存在しており、明確に資源が減少したとの報告も見当たらない。
生物多様性とは ニホンザリガニの保全と外来のザリガニ 川井唯史

ウチダザリガニは生息域が広く水中でも生息可能なため、全てを見つけ出して取り除くのは困難と言えるでしょう。

参考

マリモの天敵はウチダザリガニ」への6件のフィードバック

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